東京国立博物館を代表する名品「埴輪 踊る人々」と「見返り美人図」の文化財修理にかかわる費用を個人や企業から寄附を募るファンドレイジング事業、「踊る埴輪&見返り美人 修理プロジェクト」が2022年4月1日より開始されています。これは、今年3月に創立150年を迎えた東京国立博物館の記念事業の一環で、文化財活用センターとの共同プロジェクト。目標金額は1,000万円。

東京国立博物館の150年の歩みの中で変わらない使命は、先人から受け継いだ文化財を大切に守り、次の世代へ伝えることです。これまでも東京国立博物館は文化財の保存と修理に日々取り組んできましたが、限られた予算の中で多くの文化財が修理の順番を待っています。
プレスリリースより
「埴輪 踊る人々」と「見返り美人図」という館を代表する作品の修理をきっかけに、ひとりでも多くの方と一緒に過去と未来の懸け橋となって、かけがえのない文化財をつないでいきたい。その思いから新たに立ち上がったプロジェクトです。
皆様のあたたかいご支援をどうぞよろしくお願いいたします。
記念品のほか、館内への顕彰、節税効果も。
記念品として、『【踊る埴輪&見返り美人デザイン】てぬぐい』(1万円の寄付)、『【踊る埴輪デザイン】熊谷染小風呂敷』『【見返り美人デザイン】江戸硝子オールドグラス』(3万円/5万円の寄付)が用意される他、館内への顕彰(5万円の寄付、希望者のみ)なども。

さらに、東京国立博物館は、税法上野優遇措置となる「特定公益増進法人」であり、同館へ寄付を行う個人は、当該寄付金について一般の法人に対する寄付金とは異なる所得税、住民税の優遇措置を受けることができます。
修理対象作品紹介
「埴輪 踊る人々」 埼玉県熊谷市 野原古墳出土 古墳時代・6世紀

ポカンとあいた目と口の愛らしい表情。左手をあげて右手を胸前に出すポーズ。埴輪と言えばこのフォルムを思い浮かべる人も多いでしょう。「踊る埴輪」として親しまれていますが、近年では左手で馬の手綱を引く馬子(まご)とみる説もあります。
小さい方の埴輪は、腰に鎌を着け、顔の両脇で髪を結って束ねる美豆良(みずら)という男子の髪型をしています。一方、大きい方の埴輪にはその特徴がみられず、男女のどちらかよくわかっていません。ただ、女子の埴輪によくみられる胸部や服飾の特徴的な表現がないことから、男子の埴輪であるとも考えられています。衣服や武具、アクセサリーを身に着ける埴輪も多くありますが、この作品はどちらの衣装も帯のみと大胆にデフォルメされています。この素朴さ、そして生き生きとした動きが作品の魅力でもあるのではないでしょうか。
プレスリリース
必要な修理
胴や腕の部分に横向きの亀裂が複数みられる他、過去の修理による石膏が経年劣化し、一部に剥離が生じています。東京国立博物館の所蔵する埴輪の中でも知名度の高い作品であることから、他施設から貸出し依頼の多い作品ですが、慎重な取扱いを必要とするため、断念せざるを得ない状況ということです。

胴に横向きの亀裂が入っている
今回の修理では、解体、旧修理による石膏部分の除去、亀裂の強化・接合などが行われる予定です。
画像
胴に横向きの亀裂が入っている画像
右半分が旧修理で施された石膏

右半分が旧修理で施された石膏
「見返り美人図」 菱川師宣(ひしかわもろのぶ)筆 江戸時代・17世紀

目にも鮮やかな濃い紅色の綸子(りんず)地の振袖をまとった若い女性がふと振り返る一瞬を描いた、菱川師宣晩年の肉筆画。切手のデザインになったことでも有名です。「玉結び」というヘアスタイル、菊や桜の花で描かれた「花の丸」模様の振袖、人気役者の着こなしにちなんだ帯結び「吉弥(きちや)結び」など、当時の町中で流行した最新のファッションを描いていることもこの作品の魅力です。また、織り出された綸子の地模様まで詳細に描くリアリティは、きものに刺しゅうと金銀の箔で模様を施す縫箔師(ぬいはくし)の家に生まれた師宣ならではといえるでしょう。江戸時代の戯作者(げさくしゃ)山東京伝(さんとうきょうでん)(1761~1816)が、箱書きをしており、江戸時代から有名な作品だったようです。
プレスリリースより
必要な修理
桜の花など絵具の部分には多くの剥離、剥落がみられる状態です。こういった部分には膠(にかわ)水溶液など天然の接着剤による剥落止めを行ない、これ以上傷みが進まないよう保護します。

桜の花の描かれた箇所が剥落している
本作品には巻いて収納する掛軸特有の傷みともいえる、折れや擦れがみられます。折れには、細く帯状に切った和紙で裏面から部分的に補強する、「折れ伏せ」といわれる技法を用いて修理をします。表から見える部分ではありませんが、長く作品を引き継いでいくうえでとても大切な処置です。また擦れて欠損した部分には、そのかたちに合わせて調整した、本紙に似寄りの材料を用いて補います。その他、経年による汚れのクリーニングや旧裏打ち紙の除去、新たな裏打ちも行います。
リソース
- 東京国立博物館文化財活用センター プレスリリース
- https://www.atpress.ne.jp/news/302858
プロジェクト概要
- 東京国立博物館創立150年記念 踊る埴輪&見返り美人 修理プロジェクト
- 目標金額:1,000万円
- 寄附募集期間:令和4年(2022)4月1日~令和5年(2023)3月31日
- 寄附金の使途:「埴輪 踊る人々」「見返り美人図」の修理に関連する費用