《会場レポと見所紹介》特別展「国宝 聖林寺十一面観音 ―三輪山信仰のみほとけ」東京国立博物館

2021年6月22日

投稿:M3PRESS編集部

東京国立博物館(上野公園)にて、特別展「国宝 聖林寺十一面観音 ―三輪山信仰のみほとけ」が、6月22日に開幕しました。会期は2021年9月12日(日)までとなります。編集部では前日に開催された報道内覧会を取材、展覧会会場のようすとともに、本展の見どころを紹介します。

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会場レポート:特別展「国宝 聖林寺十一面観音 ―三輪山信仰のみほとけ」

奈良県桜井市にある聖林寺の国宝「十一面観音菩薩立像」は、天平彫刻の名品で日本を代表する仏像のひとつ。江戸時代までは、法隆寺の国宝 地蔵菩薩立像などとともに同市にある大神神社に所蔵されていました。大神神社(おおみわじんじゃ)は本殿を持たず、三輪山(奈良県)を拝む自然信仰をいまに伝えますが、奈良時代以降は仏教の影響を受けて神社に付属する寺(大神寺、鎌倉時代以降は大御輪寺に改称)や仏像がつくられました。

会場入口 編集部撮影

本展では、奈良・聖林寺 国宝 十一面観音菩薩立像 のほか、大御輪寺(大神寺)にあった仏像や、大神神社の自然信仰を示す三輪山禁足地の出土品などが展示されます。

展示風景
中央:国宝 十一面観音菩薩立像(部分) 奈良時代・8世紀 奈良・聖林寺蔵
報道内覧会にて編集部撮影

フェノロサや白洲正子といった数多くの作家や芸術家を心酔させた、日本彫刻の最高傑作、国宝 十一面観音菩薩立像 が東京で初公開される、貴重な機会。近年、来場者にも好評の360度から全体を鑑賞することができる展示形式です。

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展示風景
中央:国宝 十一面観音菩薩立像(部分) 奈良時代・8世紀 奈良・聖林寺蔵
報道内覧会にて編集部撮影

展覧会のみどころ

奈良時代(8世紀)に造像された数少ない天平彫刻のなかでも、名品と称される国宝「十一面観音菩薩立像」(奈良・聖林寺蔵)。東京で観覧できるのは本展が初めて。その優雅な表情、均整のとれた体軀、姿勢、しぐさの美しさを360度さまざまな角度から観覧することができる展示方法が採用されるほか、会場はに大神神社の三ツ鳥居を再現、三輪山信仰にも迫ります。また、女優の天海祐希さんがナビゲーターを担当する音声ガイドにも注目を。

国宝「地蔵菩薩立像」、正暦寺「日光菩薩立像」「月光菩薩立像」も

江戸時代までは神社に仏がまつられるのは珍しくなく、奈良・法隆寺にまつられる国宝「地蔵菩薩立像」、奈良・正暦寺「日光菩薩立像」、「月光菩薩立像」も大神神社にまつられていました。

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三輪山(みわやま)信仰

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三輪山

日本人は古来自然に畏敬(いけい)の念を抱き、神が宿る依り代(よりしろ)として、山や滝、岩、樹木などを信仰しました。三輪山はその代表的な例で、大神神社(おおみわじんじゃ)には神をまつる本殿はなく、三輪山を御神体として礼拝します。『古事記』の神話に、大物主大神(おおものぬしのおおかみ)が大国主大神(おおくにぬしのおおかみ)に、国造りに協力するから「吾をば倭(やまと)の青垣(あおがき)の、東の山の上にいつきまつれ」(私を、大和を囲む青い垣根のように連なる山々の東の山にまつりなさい)と望み、三輪山にまつられたと語られています。三輪山には人々が入ることができない禁足地があり、そこから古代の祭祀を物語る子持勾玉や、造酒に用いる器具の小さな土製模型が出土しており、古くからの信仰の存在を確認できます。

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山ノ神遺跡出土品 奈良県桜井市山ノ神遺跡出土 古墳時代・5~6世紀 東京国立博物館蔵

大神神社の由緒には、三輪山の頂上の磐座(いわくら、神の宿る場所)に大物主大神、中腹の磐座に大己貴神(おおなむちのかみ)、麓の磐座には少彦名神(すくなひこなのかみ)が鎮まるとあります。三輪山を御神体とする大神神社拝殿とその奥の禁足地の間には結界として鳥居と瑞垣(みずがき)が設けられています。その鳥居は、一列に3つ組み合わせた独特の形式で「三ツ鳥居(みつとりい)」といい、中央には扉が付けられています。拝殿がはじめてつくられたのは鎌倉時代のことで、現在の拝殿は寛文4年(1664)徳川家綱が再建したものです。国宝 聖林寺十一面観音菩薩立像をかつて安置していた大御輪寺は、大直禰子神社(おおたたねこじんじゃ)(若宮)となっています。

聖林寺

十一面観音菩薩立像をまつる聖林寺は、奈良県桜井市にある真言宗室生寺派の寺院です。山号は霊園山(りょうおんざん)、本尊は地蔵菩薩で、開基は藤原鎌足の子である定慧(じょうえ)とされます。

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聖林寺外観

三輪山の山稜や、箸墓など古代大和の古墳が散在する奈良盆地の東半分を望むことができます。

国宝「十一面観音菩薩立像」が奈良県から出るのは初!

十一面観音菩薩は、十一の面であらゆる方向を見渡し、深い慈悲の心で人々を救います。国宝 聖林寺十一面観音菩薩立像は、厳かな顔立ちや均整のとれた体つきなど、その圧倒的な美しさから日本彫刻の最高傑作とされます。かつて大神神社の境内にあった寺に安置されていましたが、明治元年の神仏分離令によって聖林寺に移されました。本像は、主に8世紀後半に用いられた木心乾漆造り(もくしんかんしつづくり)という技法でつくられています。木心乾漆造りは、木心の上に木屎漆(こくそうるし)という漆と木粉の練り物で形をつくる技法で、肉身の微妙な起伏や衣の写実的表現に適しています。

文化財を守るため1897年(明治30年)に「古社寺保存法」が制定されると、聖林寺の十一面観音菩薩立像は国宝(旧国宝)に指定されました。1950年(昭和25年)には文化財保護法として新制度に移管され、翌年の第一次で選ばれた国宝仏24のひとつとして国宝(新国宝)に指定されました。

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国宝 十一面観音菩薩立像 奈良時代・8世紀 奈良・聖林寺蔵

頭上面

頭上には11の面がありましたが、現在は仏面1、菩薩面2、怒った顔3、牙を出した面2が残ります。

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国宝 十一面観音菩薩立像 頭上面(部分) 奈良時代・8世紀 奈良・聖林寺蔵

力を抜いてゆったりとした指の美しさに目をうばわれます。左手も優雅に水瓶を捧げ持ちます。

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国宝 十一面観音菩薩立像 右手(部分) 奈良時代・8世紀 奈良・聖林寺蔵

開催概要 特別展「国宝 聖林寺十一面観音 ―三輪山信仰のみほとけ」

詳細および最新情報については公式サイトをご確認ください。

  • 展覧会名:特別展「国宝 聖林寺十一面観音 ―三輪山信仰のみほとけ」
  • 会場 : 東京国立博物館 本館特別5室
  • 会期 : 2021年6月22日(火)〜9月12日(日) ※会期中に展示替えがあります。
  • お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
  • ※2022年2月5日〜3月27日 奈良国立博物館にて巡回予定

展覧会特設サイト

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tsumugu.yomiuri.co.jp
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/shorinji2020/

取材協力とリソース

  • 東京国立博物館さま
  • 特別展「国宝 聖林寺十一面観音~三輪山信仰のみほとけ~」 プレスリリース、同PR事務局さま
  • 記事中の写真については明記があるものは報道内覧会にて編集が撮影、それ以外は主催者さまご提供の画像となります。

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