特別展「大江戸の華─武家の儀礼と商家の祭─」東京都江戸東京博物館の展覧会みどころと楽しみ方をがっつりまとめてみた。
東京都江戸東京博物館(両国)にて開催中の特別展「大江戸の華─武家の儀礼と商家の祭─」。本展は、江戸の人びとの暮らしや人生における“ハレ”の場面を描いた作品を通じ、都市江戸の活発で明るい一面に迫るというもの。

江戸東京博物館が所蔵するコレクションからよりすぐりの品々はもちろん、国内各所から優品を集めるとともに、イギリス・アメリカからも二領の鎧が日本に里帰りし、江戸に生きた人々の明日への活力を私たちに伝えてくれます。編集部では開幕の前日に開催した報道内覧会を取材、会場の展示風景とともに本展のみどころをご紹介します。
※会期は2021年7月10日(土)~9月20日(月・祝)。会期中に展示替えアリ
学芸員さんイチオシ!撮影スポット
本展ではごく一部の作品を除き、展示作品の撮影がOKです。学芸員さんのイチオシは入り口すぐのエリアにずらりと並ぶ五領の鎧。編集部も撮影してみました。

5領全部収めるには意外とスマホが広角で便利だったりしますよ!(この写真は一眼レフで撮影しています。)他にも、霊獣なのにちょっとカワイイ、富永稲荷の祭で使われた四神像や武家の女性の晴れ着などもオススメ。7月30日からはオンラインでのバーチャルツアーも開始が予定されているので、事前にロケハンしてみるのもいいかも。視聴URLは江戸東京博物館のサイトで発表されるとのことです。
会場展示風景
やや順不同に会場の展示風景とその中からいくつかをピックアップしていきます。
会場風景(動画)
色々威丸胴具足(いろいろおどしどうまるぐそく)
本展にあわせて「里帰り」した鎧の一つ「色々威丸胴具足」。現在はイギリスの王立武具博物館の所蔵で、通常はロンドン塔ホワイトタワーで展示されています。この鎧は慶長18年(1613)年9月に、徳川家康が準備し、徳川秀忠からイギリス国王ジェームズ一世に贈られたものです。胸板の裏には「南都岩井与左衛門作」の銘があり、大和の甲冑師で徳川将軍家に抱えられた岩井与左衛門の作であることを表しています。

色々威胴丸具足(いろいろおどしどうまるぐそく) 岩井与左衛門/作 1613年/贈 王立武具博物館(イギリス)/所蔵
「色々威丸胴具足」は、日英両国の親善のため、徳川家からイギリス国王へ贈られ、日本とイギリスをつなぐことに大きな役割を果たしました。戦国の争乱から、江戸の泰平の世へ転換するなか、鎧も戦うための道具から儀礼の道具へと役割が変わりつつあったことを、この鎧は物語っています。
四神旗(しじんき)
富永稲荷の四神旗。写真手前から、玄武、白虎、朱雀、青龍。古代中国で生まれた四神をめぐる信仰は江戸時代においても生きており、神社の祭礼にも登場しました。

獅子頭(ししがしら)
富永稲荷の神前に奉納され、招福・疫病退治を祈願する獅子舞に用いられた獅子頭。雌雄一対で、大きな角の在る方が雄、丸い宝珠のついた方が雌です。

金と銀の具足の再会
写真左の「金小札変り袖紺糸妻紅威丸胴具足(きんこざねかわりそでこんいとつまべにおどしまるどうぐそく)」は本展の開催にあわせ現在の所蔵先であるアメリカのミネアポリス美術館より、海を越えて里帰りを果たしたもの。前立て部分にひと際大きな蟷螂(かまきり)の彫刻が据えられた、紀伊徳川家ゆかりの具足です。同家は蟷螂を意匠とする前立てに何らかの意味を持たせていた可能性があるとされています。

- 展示風景 編集部撮影
- 写真左:金小札変り袖紺糸妻紅威丸胴具足(きんこざねかわりそでこんいとつまべにおどしまるどうぐそく) 江戸時代 ミネアポリス美術館、エセル・モリソン・ヴァン・ダーリップ基金/所蔵
- 写真右:銀小札変り袖白糸威丸胴具足(ぎんこざねかわりそでしろいとおどしまるどうぐそく) 江戸時代 江戸東京博物館/所蔵
そして右側の江戸東京博物館所蔵の伊予国西条藩松平家伝来の鎧「銀小札変り袖白糸威丸胴具足」は、扇形の大袖・金具・仕立てが非常によく似ており、同じ時期、同じ工房で製作されたものと推測されます。
このことは、具足の所有者がきわめて近しい関係、あるいは兄弟関係にあったことを伺わせます。兄に金小札、弟に銀小札の意匠の具足があつらえられたのかもしれません。さらに、具足が伝来した両家は本家と分家の関係にあり、紀伊徳川家が本家、伊予国西条藩松平家が分家の関係でした。意匠における金と銀の使い分けは、本家と分家の格式の違いにも関係していた可能性があります。
ミュージアムショップ
公式図録は税込2,700円。鎧のアップの写真が掲載されていたり、読み物としても写真集としてもオススメです。また、江戸東京博物館は江戸に関する書籍や資料、グッズなどがたくさん販売されています。展覧会オリジナルグッズ以外もじっくりチェックしてみると思わぬ「掘り出し物」に出会えるかも。
絶対おさえておきたい公式図録
- 特別展「大江戸の華―武家の儀礼と商家の祭―」公式図録/税込 2,700 円 (全220 ページ)

本展を監修した3名の学芸員執筆による、展覧会公式図録。特別展「大江戸の華―武家の儀礼と商家の祭―」の魅力が詰まった一冊には、図録オリジナルの解説と、展示作品の一つ一つがダイナミックな構図の写真で収録され、目にも楽しい仕上がり。
オリジナルグッズをまとめて紹介
カプセルトイ(アクリルキーホルダー)

会場限定のカプセルトイ。「獅子頭」や「四神像」「富永稲荷神使狐像」のアクリルキーホルダー全8種)のほかに、着物の模様が華やかな缶バッジ全5種)があります。何が出るかはお楽しみ!
「大江戸の華」マグカップ

天の四方の方角を司る霊獣である、青龍(せいりゅう)、朱雀(すざく)、白虎(びゃっこ)、玄亀(げんき)をデザインしたマグカップ。江戸の大店でまつられていた稲荷社富永稲荷で使用された神聖な祭具ながら、霊獣の表情はどこかユーモラスさも感じさせます。
「大江戸の華」トートバッグ
「白麻地御殿模様茶屋染帷子」の模様をあしらったトートバッグ(全2種)。黒地にピンクを差し色にしたブラックと、白地に青を差し色にしたナチュラルの2種類があります。A4サイズが収納できる使いやすいサイズ感も魅力的。
あらためて展覧会の構成と見所を紹介
18世紀初頭の江戸は、推定100万人もの人口を擁する世界有数の大都市でした。本展は「1章 式正―武器と儀礼―」「2章 年中行事―お稲荷さまと雛祭り―」「3章 憧憬―彩りの道具と装い」にプロローグとエピローグを合わせた五部構成。江戸の武家や商家の儀礼、祭などの年中行事をとりあげ、江戸の人びとの暮らしや人生における“ハレ”の場面や舞台を描いていきます。
ハレ”という場面や舞台が明日への活力に通じる。このことは江戸時代に限ることではなく、現代のわれわれにも通じることではないでしょうか。 本展覧会がコロナ 禍に見舞われたこの時代にあって、明日への活力を考える場になれば幸いです。
東京都江戸東京博物館のプレスリリースより
- 実用性よりも審美性が重視されるようになった鎧や武器の数々をダイナミックに展示!!
- お稲荷様のお社や四神旗、獅子頭など大商人による貴重な祭道具が集結。江戸時代の祭を臨場感溢れるリアルさで再現!!
- 雛人形や小袖など豪華絢爛な道具。時代を支えた武家の女性達の姿に迫る!!
1章 式正―武器と儀礼―
天下泰平の江戸時代。その時の武家の姿とは?
1章では、人生の節目で用いた表道具や調度などから「泰平の世」の武家の姿に迫ります。
- [左] 萌葱地葵紋付小紋染胴服(もえぎじあおいもんつきこもんぞめどうふく)
- 元和元年(1615) 江戸東京博物館/所蔵 展示期間:8月11日~9月5日
- [右] 白天鵞絨地胴服(しろびろうどじどうふく)
- 16世紀後半~17世紀前半 江戸東京博物館/所蔵 展示期間:9月7日~9月20日
慶長8年1603、征夷大将軍となった徳川家康が江戸に幕府を開いて以来、江戸は全国政治の拠点にふさわしい、天下の惣城下町として急速に整備されました。将軍の居所であり政庁でもあった江戸城の周囲には、将軍の直参である旗本・御家人、全国から参勤する大名やその家臣らが集住します。

- 日光東照社参詣図屏風/日吉山王社参詣図屏風(にっこうとうしょうしゃさんけいずびょうぶ/ひえさんのうしゃさんけいずびょうぶ)
- 江戸時代前期 江戸東京博物館/所蔵 展示期間:7月10日~8月9日 / 8月11日~9月20日
戦乱が収束して「泰平の世」となると、「弓馬の道」といわれた武芸よりも、主君への忠義や父祖への孝とともに、家の序列やその秩序を維持するための儀礼が武家に求められるようになりました。それにともない、彼らの身分を象徴する表道具である具足や刀剣も、戦場とは異なるさまざまな儀礼の場で用いられ、独自の役割を果たしていくようになったのです。

- 白羅紗葵紋付陣羽織(しろらしゃあおいもんつきじんばおり)
- 江戸時代末期~明治時代初期 江戸東京博物館/所蔵 展示期間:7月10日~8月9日
2章 年中行事―お稲荷さまと雛祭り―
迫力ある大型の祭道具が続々!商家の暮らしから紐解く江戸の祭

- 富永稲荷 社殿(とみながいなり しゃでん)
- 19世紀前半 江戸東京博物館/所蔵
幕府による都市計画のもと、インフラや支配の仕組みが整えられた江戸の町は、18世紀初頭には推定人口百万人を越える世界でも有数の大都市となりました。全国からさまざまな人・物・情報が集まり、江戸は流通・経済の中心地としても大きな発展を遂げていきます。
江戸の発展は、いくつもの店舗を構え、手広く商業活動を展開した、大店といわれる巨大な商人を生み出しました。その豪壮な暮らしの中で用いられた調度の数々は、大名家のそれとくらべても見劣りしないものです。このような江戸の大店のひとつが、鹿嶋屋東店(かじまやひがしだな)です。江戸の鹿嶋屋といえば、下り酒問屋の鹿嶋清兵衛家(本店、ほんだな)が有名ですが、同家四代目清兵衛は、深川島田町に分家の東店を出し、清左衛門を名乗りました。鹿嶋清左衛門の東店は江戸時代後期から幕末にかけて経営を拡大し、本店にも劣らぬ、江戸屈指の大店に成長しました。

- 牡丹唐草蒔絵雛道具(ぼたんからくさまきえひなどうぐ)
- 文政10年(1827) 江戸東京博物館/所蔵
鹿嶋屋東店では、さまざまな行事が執り行われました。東店の屋敷神である富永稲荷の祭や雛祭りから、大店ひいては町人の暮らしにおける”ハレ”の場面に迫ります。

- 染分縮緬地襷菊青海波文様友禅染振袖
- (そめわけちりめんじたすききくせいがいはもんようゆうぜんぞめふりそで)
- 江戸時代中期 丸紅株式会社/所蔵 展示期間:7月10日~8月9日
3章 憧憬―彩りの道具と装い
細かな技巧が光る道具から武家を支えた女性達の知られざる姿に迫る
- [左] 梨子地葵紋散松菱梅花唐草文様蒔絵女乗物
- (なしじあおいもんちらしまつびしばいかからくさもんようまきえおんなのりもの)
- 元禄11年(1698) 江戸東京博物館/所蔵 展示期間:7月10日~8月9日
- [右] 黒塗梅唐草丸に三階菱紋散蒔絵女乗物
- (くろぬりうめからくさまるにさんがいびしもんちらしまきえおんなのりもの)
- 江戸時代末期 江戸東京博物館/所蔵 展示期間:8月11日~9月20日
江戸時代は身分制度が徹底されており、人々は生を受けた家によって将来進むべき道が決められていました。また、生まれもった性別でも背負う役目は異なりました。軍事力が求められた武士の家では、表の場に女性たちが出ることはほとんどありませんでした。武家社会において女性たちが担っていた大きな役割の一つとして、その核となる家を守り、次の世代へと繋ぐことがありました。彼女たちは婚礼を通して家と家の橋渡し役となり、世継ぎを立派に育て上げることで、家の繁栄をささえました。表舞台に立たない代わりに、男性とは違った手段で江戸の発展を導いたのです。

- 綾杉地獅子牡丹蒔絵十種香箱(あやすぎじししぼたんまきえじゅっしゅこうばこ)
- 慶安2年(1649) 江戸東京博物館/所蔵
この章では武家の女性たちにとって大きな役目であった「婚礼」と「子育て」に注目し、江戸の繁栄を影から支えた彼女たちの姿を紐解きます。

- 紫縮緬地御所解模様小袖(むらさきちりめんじごしょどきもようこそで)
- 江戸時代後期 江戸東京博物館/所蔵 展示期間:8月11日~9月5日
開催概要

- 白麻地御殿模様茶屋染帷子(しろあさじごてんもようちゃやそめかたびら)
- 18世紀後半~19世紀前半 江戸東京博物館/所蔵 展示期間:7月10日~8月9日
入館には日時指定予約が必要となります。最新の情報は公式サイトをご確認ください。
- 名称:特別展「大江戸の華─武家の儀礼と商家の祭─」
- 会期:2021年7月10日(土)~9月20日(月・祝)※会期中に展示替えがあります。
- 会場:東京都江戸東京博物館
- 開館時間:午前9時30分~午後5時30分 ※入館は閉館の30分前まで
- 休館日:毎週月曜日(ただし7月26日、8月2・9・16・30日、9月20日は開館)、および8月10日(火)
東京都江戸東京博物館の公式サイト
取材ご協力
- 東京都江戸東京博物館さま、 特別展「大江戸の華─武家の儀礼と商家の祭─」 PR事務局さま
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